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札幌地方裁判所 昭和50年(ワ)190号 判決

原告 国鉄動力車労働組合札幌地方本部

被告 国鉄動力車札幌地方労働組合

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物部分を明渡せ。

二  被告は原告に対し、昭和五〇年三月二六日以降右建物部分明渡済に至るまで一か月金三〇万円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

〔請求の趣旨〕

一  主文同旨

二  仮執行の宣言

〔被告〕

一  本案前の答弁

1 本件訴を却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

〔原告〕

A  原告が民事訴訟法第四六条の代表者の定めのある社団であつて当事者能力を有すること及び原告の代表者執行委員長佐々木善治が代表権を有することについて(被告の本案前の抗弁に対する原告の主張)及び被告が同法同条の代表者の定めのある社団であつて当事者能力を有することについて

一 動労の単一組織性

1 国鉄動力車労働組合(以下、「動労」ということがある)は、日本国有鉄道(以下、「国鉄」という)の動力車に関係ある労働者四万七千余名をもつて組織する全国的な規模を有する単一組合であり法人である。単一組織は、個々の労働者が個人としての資格において全国的組織の構成員となる組合組織をいうのであり、動労はまさにこれに該当する。動労は、動労規約第三条に「この組合は、日本国有鉄道の動力車に関係ある者で組織する」と規定し、単一組織であることを明確にしている。しかも、動労の組織実体は、国鉄労組・全逓労組・全電通労組と同じように、国鉄に相対峙する全国的な規模の企業別組合、すなわち同一企業に従事する労働者を組織する組合組織である。動労は、全国の組合員から直接選出された代議員によつて最高決議機関である全国大会を構成し(動労規約第三五条・第二六条一項)、右代議員が全国大会に次ぐ決議機関である中央委員会のメンバーを互選し(同第三七条・第二八条一項)、全国大会において中央本部を構成する中央執行委員会の役員を選出することとしている(同第四一条・第一五条)。このように、全国に散在する組合員の手によつて直接無記名投票で選出された代表者たる代議員が基盤となつて全国大会・中央委員会及び中央本部を構成し、これらの中央機関が団結の中枢に位置して動労の組織運営が遂行され、動労の一体性を確保していく組織形態をとつているのである。すなわち、動労の運動方針、労働協約の締結等、組合財政その他組合運営の重要事項は全国大会あるいは中央委員会において全国の組合員の代表者によつて民主的な討論が行われ、決議された事項は中央本部においてこれを全国的な規模で執行・実践されていくのである。中央本部は、大会あるいは中央委員会の決議を忠実に執行・実践しなければならない地位にある。ところが動労の場合、組合員が全国的な規模で存在している関係上、中央本部が直接各組合員を把握し、内部統制を維持することが困難であるところから、地域別に地方本部などの下部組織を設け、これらの組織を通じて末端の組合員を把握し、組合活動及び内部統制を円滑かつ実効的ならしめると共に、その組合活動をできるだけ末端組合員の意思を反映させる組織構成をとることとしているのである(同第一四条、第一六条、第一七条)。

動労の地方本部は動労規約第一六条によつて設置された動労の下部組織であつて、全国二九の各鉄道管理局及びこれに準ずる範囲に勤務する動労の組合員をもつて組織され、動労の規約や大会決議によつて拘束を受けるものの自己固有の代表者、決議及び執行の機関を有し、地方本部規約、会計規則などを具え、動労の方針に反しない範囲内で活動することを承認されている権利能力なき社団である。

このように、地方本部は、それ自体独立の社団ではあるが、単一組織である動労の構成分子として存在する一つの地方組織であり、その目的・機能も限定され、動労の方針に反しないかぎりで自治を承認されているにすぎない。動労規約第二五条もこの自明の理を「各級機関は大会、中央委員会で決定された方針を実践しなければならない。これに反する決定は無効とする」と規定しているのである。

2 中央本部と地方本部・支部との関係を詳述すると次のとおりである。

(一) 中央執行委員会で構成する中央本部は、全国大会又は中央委員会の決議の範囲内で組合員に直接に指令・指示をする権限があり(動労規約第三二条一項二号)、通常、右指令・指示の組合員への伝達方法は地方本部等を通じて行われる。従つて、地方本部は、中央本部の指令・指示を組合員に伝達するといつた中間機関的な任務がある。そして、闘争時には、中央本部役員が地方本部等に派遣され中央本部の意を体して地方本部等に指令・指示をすることがある。

(二) 地方本部は、全国大会あるいは中央委員会で決定された方針の範囲内で行動し、その範囲外で独自の行動をとることはできない。また、ある地方本部に特有の問題であつてもその地方本部における地方本部大会の決議は、中央本部に報告され、全国大会または中央委員会の決定した方針をふまえて中央本部が指令・指示しその地方本部の諸行動を展開していくという運営がなされている。

(三) 地方本部は、動労規約に反しない限り自主的に地方本部規約を設けることができ、これを中央本部に届出なければならない。従つて、当然のことながら地方本部規約は本部規約に抵触してはならず、もし矛盾があれば動労規約が優先して適用されることになる(同第六一条)。

(四) 動労に加入する場合及び動労から脱退する場合には、加入届・脱退届を中央本部の中央執行委員長に届出し、中央本部が組合員名簿を保管する(同第六条、第九条)。

(五) 組合費は全国大会で決定し、支部・地方本部を経由して中央本部に納入され、地方本部の運営費用は中央本部から交付金として交付される。地方本部は中央本部を代行して組合員から徴収した組合費を中央本部に納入せず中央本部から交付される交付金と相殺勘定をおこすことは原則としてできない。また、地方本部等で独自に特別地方本部費などを徴収しようとする場合には、中央本部の承認を得なければならないことになつている(同第四七条)。

(六) 組合の資産の管理又は処分は、それぞれ機関の決議を経て中央執行委員長が行なう(同第四八条)。そして、中央本部役員である会計監査員は、地方本部を含む一切の組合会計に係る出納に関し監査し、必要に応じ中央執行委員会に報告し地方本部の臨時監査をすることができる(同第五一条)。

(七) 全国大会又は中央委員会は、自ら組合員に対する制裁を決定できるほか、地方本部における制裁の決定に対する異議につき再審査することができる。そして、査問委員会が中央・地方双方に同一案件で設置された場合には、中央本部に設置された査問委員会の審議を優先させ、地方本部査問委員会の審議を停止させることになつている(査問委員会規則第一二条)。

(八) 全国的な組織の他団体へ加入したり、脱退したりする場合には全国大会で決定し(動労規約第二七条三号)、地方本部が地方的組織へ加入・脱退を決めた場合にはその旨中央本部に報告し、中央本部は右加入・脱退が妥当ではないと判断した場合、これを是正することができる。

(九) 動労の職員は、地方本部で勤務するものでも中央本部で雇用し、本部の一般会計から賃金を支払うこととしており、地方本部の採用を原則として認めていない。

このように地方本部は、本部規約上はもとより実際の運営においても動労の地方下部組織であることは明白である。

二 原告は、前記のように動労規約第一六条によつて設置された動労の下部組織たる地方本部(以下、「地本」ということがある)の一であって北海道総局直轄局に勤務する動労の組合員をもつて組織され、動労規約や大会決議によつて拘束を受けるものの、自己固有の代表者、決議及び執行の機関を有し、地本規約、会計規則などを具え、動労の方針に反しない限りにおいて自主的な活動をすることができる。その財政的基礎は動労よりの交付金のほか、原告が所属の組合員から徴収した組合費などから形成され、これを自らの責任においてその活動の用に供し、対外的にも自己の名で財産上の取引などをなしている。従つて、原告は、動力車労組の統制下にあるとはいえ、それ自体独立の団体としての組織を有して、代表の選任、財産の管理等団体としての主要な点についての定めがあり、かつ、構成員の変動にかかわらず団体としての同一性を保持するものであつて、権利能力なき社団であり、民事訴訟法第四六条の代表者の定めのある社団である。

三 佐々木善治が原告代表者に選任されるまでの経緯

1 動労は、昭和四七年七月の第二六回定期全国大会において、社会党を支持政党とすること、昭和四九年七月に実施が予定されている参議院議員選挙に組織内候補を立てることを決定し、右決定に基づき同年一一月の第七五回定期中央委員会で動労前委員長の目黒今朝次郎を組織内候補として立てること、第三闘争資金として組合員から一人金二〇〇〇円を徴収(第一回五〇〇円を同年一二月、第二回一〇〇〇円を昭和四八年一二月、第三回五〇〇円を昭和四九年九月末)することを決定した。

2 動労は、昭和四八年七月の第二七回定期全国大会において、

(一) 動労は社会党の支持団体として積極的に協力関係を展開し、県段階での党の労対会議に地方本部より積極的に参加して相互協力をはかること

(二) 職場に社会党員、党友を中心とした社会党支持委員会の組織化を積極的に行い、社会新報の読者拡大、政策学習会、政治活動資金カンパの毎月行動化などについて支持委員会の活動の一環として取り組むこと

(三) 動力車党員協議会の育成強化と支持委員会との連携を有機的にはかり、日常の政治活動、地域住民との連携行動を積極的に推進すること

(四) 組合の政治闘争については、地方における社会党県本部、県労評、地区労など地方組織と連携を保ち、各級機関で取り組むこと

等を含む運動方針を決定した。

3 原告は、昭和四八年八月一七日から同月一九日の間開催された第二三回定期地方本部大会(以下、「地本大会」ということがある)において、遠藤泰三を執行委員長に選出するとともに、

(一) 第三闘争資金については納入期限の一二月中までに組合員の理解と協力を得ることが難しいので徴収を保留し、さらに下部討議をすすめる。

(二) 組合員個々人の政党支持の自由、政治活動の自由を保障することは、要求で団結してたたかう大衆組織である労働組合運動の原則であり、このうえに立つて労働組合と政党との正しい協力共同の関係をうち立てる。

(三) 労働者の団結にとつて有害な革マル、トロツキストの侵入に対しては組織的に克服するよう大衆的に対処する。という内容を含む運動方針を決定した。

4 これに対し、動労中央本部は、同年九月一〇日動力車組織第五号「札幌地本運動方針一部の第二七回全国大会決定運動方針及び本部規約第二五条違反に伴うその効力の停止と措置について」をもつて原告執行委員長遠藤泰三(当時)に対し、原告の右運動方針につき「政党支持、政治活動の自由の確立」と「革マル批判」に触れた六カ所につき本部方針に反するとして削除訂正すること及び原告の見解の中央執行委員会への報告を求めた。

5 これに対し、原告は、同年一一月六日動札組発第四号「組織第五号についての回答について」をもつて動労中央執行委員長に対し、原告の方針は、地本大会で代議員の意志によつて決まつたものであり、従つて組合民主主義の見地からなるべく早い適当な時期に臨時地本大会を開催し組織第五号を報告し適切に解決したいと回答した。

6 動労中央本部は、同月二〇日中央本部指令第五七号「札幌地方本部運動方針の一部効力停止の具体的措置について」をもつて原告執行委員長に対し、

(一) 本部方針及び決定に抵触する原告運動方針部分の削除、訂正を各支部に指令すること

(二) 全組合員に対して運動方針の一部削除訂正された文面を附して公示すること

(三) 右(一)、(二)の措置についての経緯を中央執行委員会に対して報告すること

を指令した。

7 原告は、同月三〇日第二四回臨時地本大会を開催し、本部指令第五七号を拒否し、第二三回定期地本大会で決定した方針を堅持する旨を含む運動方針案を決定した。これに対し、動労中央本部中江書記長は、右大会において「札幌地方本部執行委員会から第二四回臨時地本大会闘争方針として提起されている中央本部指令第五七号の拒否は指令返上と解する。従つて、地本執行委員会はこれを撤回すること。また、臨時大会を一時休会し、執行委員会を開き、次の事項を提起することを確認すること。

(一) 昭和四八年度全国大会の方針を確認し、日常の諸行動に取り組むこと

(二) 札幌地方本部大会の方針は次期全国大会に地本の意見として提起すること

なお、前項の確認がなされないとするならば、中央本部としては、臨時大会の続行を動労の公的機関と認めることができないことを通告する。」と記した『臨時大会の一時休会と執行委員会の指導方について』と題するメモを原告執行委員長遠藤泰三に渡したが、遠藤泰三は、右メモに従うことを拒否した。

8 動労中央本部は、同年一二月六日原告第二四回臨時地本大会が無効である旨宣言し、各支部に対し、右宣言の掲示を作成し表示することを指示した。また、動労中央本部は、原告執行委員長遠藤泰三に対し、

(一) 第二四回臨時地本大会において、第八〇回中央委員会の確認を無視し、臨時地本大会を招集し、中央本部指令第五七号を拒否する闘争方針(案)を同大会に提起せしめ、上級機関の決定と指導を無視したこと

(二) 中央本部決定に違反することを承知しながら、執行委員会議長として会議の運営進行をはかり、組織指導の責任を放棄したこと

(三) 右臨時地本大会において、地評の指導を無視し、同時に中央本部からの「臨時地本大会の一時休会と執行委員会の指導方について」を拒否し、公的機関として認められない臨時地本大会を強行し、組織の統制と規律を乱し、地本執行委員長としての上部機関の決定を守り、各級機関を指導する義務を怠つたこと

を理由として、動労規約第三二条一項一号に基づき、同委員長の執行権及び組合員権の停止を決定し、その旨同月一三日付動力車組織第五一号をもつて通告した。

9 動労は、同月二一日第二八回臨時全国大会を開催し、

(一) 原告各級機関の執行権を停止し、以後中央執行委員会が直接組合員にすべての行動について指令すること

(二) 原告の組織の再建、組織の運営の整備をはかるため、原告組合員に対し、組合員としての再登録を実施し、再登録の申請をしなかつた者は組合員としての資格を失うものとする(以下、「本件再登録」ということがある)こと

(三) 再登録の実施にともなう資格審査については、組合員資格審査委員会を設置すること

を決定した。

10 動労は、右決定に基づき同月二二日から二八日までの間原告組合員に対し再登録手続を行つたところ、当時の原告組合員約三五〇〇名の内約一五〇〇名が再登録に応じた。

11 右再登録に応じた約一五〇〇名の組合員は、動労中央本部の指令、招集によつて昭和四九年一月二八日札幌地本再建大会を開催し、原告執行委員長として佐々木善治を選任したのをはじめ新執行部を選任し、従前からの動労規約及び旧地本規約(一部修正)に基づき、動労の地方下部組織としてこれを運営することとした。

12 動労は同月三〇、三一日第八一回臨時中央委員会を開き、右札幌地本再建大会で選任された原告新執行部の発足を確認し、遠藤泰三をはじめとする旧執行部等の除名を決定した。

13 右再登録に応じなかつた約二〇〇〇名の組合員は、同年三月二八日遠藤泰三を責任者とする被告組合を結成し、更に被告組合をはじめ各地方労組の連合体としての全国組織を結成することとし、同月三一日全国鉄動力車労働組合連合会(以下、「全動労」ということがある)が結成され、遠藤泰三はその中央執行委員長に就任し、被告組合は全動労札幌と称するようになつた。

14 前記佐々木善治は昭和四九年九月三〇日から同年一〇月二日にかけて開催された第二五回定期地本大会において原告執行委員長に再選され、その後昭和五〇年一〇月五日から同月六日開催の第二六回定期地本大会及び昭和五二年九月二三日から同月二五日開催の第二八回定期地本大会においてもそれぞれ原告執行委員長に選任されている。

四 再登録の有効性

1 本件再登録は、動労が、当時存した原告をめぐる組織的混乱状態を収拾し、組織の解体崩壊の危機を克服し、組織の統一的機能を回復するために採つた必要かつやむを得ざる措置である。すなわち、原告は、当時、動労の大会決定に反する運動方針を採択し、それに関する動労中央本部の指導や指令を拒否し、動労中央本部に対し、「たたかいぬく」などという決議をし、あからさまに動労と対決し、これから離反する態度をあらわにし、あたかも、原告は、動労とは別個独立の組織の様相を呈するに至つていたのである。もし、原告のこのような状態を放置するならば、動労は、実質的にも形式的にも、もはや統一組織体として存続し、活動することが不可能となり、単一体としての機能を喪失し、組織の解体崩壊の危機を招来せざるを得ないことは必至の状態であつたのである。ここに至つて動労としては、組織的な混乱状態を収拾し、組織的な危機を克服するために、組織的な整備を行なう必要性に迫られたのである。しかも、右原告の組織的混乱状態は、集団対集団の対立という様相を呈していて、個々の組合員に対する統制処分をもつてしては、もはや組織の混乱状態を収拾し、組織の統一的機能を回復することが不可能な状態であつたのである。原告組合員に対する再登録手続の実施は、まさにこのような状態を克服するために、個々の組合員に対し、規約や動労の諸機関の決定を遵守し、動労に留まる意思を有するか否かの確認を求めたものであつて、必要かつやむを得ざる正当な措置である。

2 被告は、本件再登録は動労規約に規定がないから無効であり、従つて、全国大会で再登録を決定しても無効であると主張する。

なるほど動労規約には、再登録について規定はない。しかしながら、前記のとおり昭和四八年一二月二一日当時、原告は、全国大会の決定に反する独自の運動方針を決定し、動労中央本部の指令や指導を拒否し、動労から離反し、別行動をとり出すという様相を呈していたのであるから、このような事態を放置するならば、動労の単一体としての機能を瓦解させ、組織の団結を破壊するものであることが必至であつた。原告は組合員数約三五〇〇名を擁する動労内でも三、四番目に大きい地方本部であり、原告の右のような混乱を放置することは動労組織の解体崩壊の危険を招くおそれが十分あつた。ここに動労中央本部としては、このような組織的な混乱状態を収拾し、組織の解体崩壊の危機を克服し、組織をたてなおすための適切な措置を講じる必要に迫られた。しかし、事態は、集団対集団の対立という状態であり、しかも原告組合員個々人が、動労中央本部の指令(全国大会決定)を守る意思を有すか否か、混然として不明な状態であつた。このような状態のもとでは、もはや規約に定める通常の統制手段をもつてしては、右のような組織的混乱状態を収拾し、組織の解体崩壊の危機を克服し組織を整備することは不可能であつた。労働組合は本来、組合員の相互信頼を基調としているものであつて、動労としては、このような異常な事態を全く想定しておらず、そのような場合の対処策を規約で定めていなかつたのである。

そこで動労中央本部は、臨時全国大会を開催し、全国大会でその解決策を決定することにしたのである。こうして開催された臨時全国大会では、予想外の組織的混乱に対して規約に定めがないため、規約の新設・改正に準じた手続をとることにし、予め、規約改正に準じ無記名投票により三分の二以上の賛成を要する旨明示し討論のうえ無記名投票をした結果、賛成二八七、反対二二、留保五という三分の二を超える賛成を得て、原告組合員に対し再登録を実施し、これに応じない者は組合員資格を喪失する旨決定したのである。このように単一体組織の解体崩壊の危機というような異常な状態を全く予測していないために規約に定めがなく、しかも事態が急迫しており、直ちに適切な措置を講じる必要に迫られていながら、規約上、他に適切かつ有効な方法がない場合には、万やむを得ない手段として、組合の最高決議機関である全国大会において規約改正に準じる厳しい要件のもとに組合員に対し再登録を実施することを決定することは許されると解すべきである。

3 被告は、本件再登録手続が無効であるとして東京地裁昭和五一年七月四日判決を援用する。しかし、

(一) 右判決では、再登録に応じなかつた組合員が全逓に対して全逓組合員であることの確認を求めた事案であるから、再登録に応じないことを組合からの脱退の意思表示とみることはできなかつた事件であるのに対し、本件では、再登録に応じなかつた遠藤泰三ら約二〇〇〇名の組合員は、動労中央本部に対立・敵対し、動労から離反する態度を示し、再登録手続が開始されると、再登録の妨害行為を行い、再登録に応じない旨の団結署名活動を開始し、また、組合費を納入せず、動労中央本部や、裁判所に組合員資格の確認を求める手続も何ら取つておらず、さらに目的も異なり運動方針などにおいて動労と対立する被告組合を結成したのであり、このような事情からすれば、右被告組合を結成した組合員らが動労にとどまる意思を放棄していたことは明白である。

(二) また右判決の場合は、全逓本部は厳しい審査基準を設けて審査を行い、その審査結果によつては、再登録申請書の提出者であつても中央執行委員会の承認を得られるとは限らないものであるのに対し、本件再登録の場合は、単に組合員再登録申請書に署名・捺印をして提出するだけであり、資格審査委員会は設置されたけれども、単に書類上の不備の有無等について形式的に審査するものにすぎず、中央本部と下部組織との関係、運動方針の評価等個々の組合員の見解まで立ち入つて実質的な審査を行うものでは全くなかつたものであり、しかも、再登録申請書を提出した者は、全員組合員資格を承認されたのである。

従つて被告主張の右判例は、本件には適切とはいえず、むしろ右判例によれば、本件再登録は有効ということができる。

4 被告は、原告が第二三回定期地本大会で決定した「政党支持・政治活動の自由」「特定政党支持の排除」「革マル、トロツキストの排除」等の方針について動労中央本部が削除訂正を命じたことが違法であると主張する。しかしながら、労働組合が組織として支持政党を決定することは自由である(最高裁昭和五〇年一一月二八日判決民集二九巻一〇号一六九八頁、同旨最高裁大法廷昭和四三年一二月四日判決判例時報五三七号一八頁)。そして、右決定が単一組織の下部各級機関を拘束するものであることは明らかである。もし単一組合において下部の機関に中央本部の決定と異なる独自の方針の採用を許すならば、労働組合の政治活動を通じた生活利益の擁護、獲得という活動に重大な支障を及ぼし、ひいてはその目的の達成を不可能にしてしまうといわざるを得ない。動労は、第二七回定期全国大会において、全国の各地本などから選出された代議員による民主的な討議の結果、「社会党支持」を圧倒的多数の賛成で決定したものであり、これが地本など下級機関を拘束するものであることは、動労規約第二五条をまつまでもなく明らかである。これを否定することは、組合民主主義を否定し、動労の単一性・組織の団結を破壊するもの以外のなにものでもない。

五 結論

1 以上によれば、本件再登録に応じなかつた約二〇〇〇名の組合員は、本件再登録を拒否することによつて動労を脱退する意思表示をしたものである。よつて、以後、前記のごとく民事訴訟法第四六条の代表者の定めのある社団たる原告の構成員は約一五〇〇名となり、昭和四九年一月二八日の札幌地本再建大会で執行委員長に選任され、以後の各定期地本大会で再選された佐々木善治は、原告代表者である。

2 仮に本件再登録手続が無効で、右約二〇〇〇名の組合員が動労を脱退する意思表示をしなかつたことになるとしても、右約二〇〇〇名の組合員は、昭和四九年三月二八日動労とは、方針・規約・組織形態・組合員資格等が全く異なる別個の労働組合である被告を結成することにより、動労を脱退する意思表示をしたものである。よつて、少くとも、以後、前記のごとく民事訴訟法第四六条の代表者の定めのある社団たる原告の構成員は約一五〇〇名となり、また、同年九月三〇日から同年一〇月二日開催の第二五回定期地本大会で執行委員長に選任され、以後の各定期地本大会で再選された佐々木善治は、原告代表者である。

六 被告は、昭和四九年三月二八日結成され、組合員約一八〇〇名を擁する未登記の労働組合であり、国鉄北海道総局直轄局相当地域において執行の機関及び代表者を有する民事訴訟法第四六条にいう代表者の定めのある社団である。

B  請求原因

一 原告(当時の名称は、国鉄機関車労働組合札幌支部)は、昭和三三年別紙物件目録記載の建物(以下、「本件建物」という)を建築し、現に所有する。

二 被告は、本件建物を占有している。

三 原告は、被告の右占有により、一か月金三〇万円の賃料相当額の損害を被つている。

四 よつて、原告は被告に対し、所有権(原告を構成する組合員の総有権)に基づき本件建物の明渡及び訴状送達の日の翌日である昭和五〇年三月二六日以降右建物明渡済に至るまで一か月金三〇万円の割合による損害金の支払を求める。

C  抗弁に対する認否

否認する。

D  再抗弁

一 遠藤泰三は、昭和四八年一二月一三日動労より動労規約第三二条一項により執行権及び組合員権停止の処置をうけ、この時点で代表者たる地位を失い、さらに昭和四九年一月三一日動労の組合員を除名されている。従つて、代表権限のない者がなした本件建物の使用貸借契約は無効である。

二 遠藤泰三は、少くとも昭和四九年三月二八日、動労及びその下部組織たる原告に敵対する被告を結成した最高首謀者として、動労を脱退した者である。従つて、契約当時、遠藤泰三は、被告の代表者であつたとしても、貸主たる原告の代表者ではなく、契約締結権限を有していない。

〔被告〕

A  本案前の抗弁等

原告は、組合員約三五〇〇名を有するものであり、佐々木善治は、原告の代表権を有しない。

一 原告の主張A一1、2の事実中、動労が法人格ある単一組織であること、地方本部その他の下部組織が存すること、動労の地方本部が一般的に権利能力なき社団であること、動労規約に原告主張の各条項が存在することは認めるが、右規約の趣旨についての原告の主張は正確でない。

二 原告の主張A二については、少くとも昭和四九年一月二八日までの原告が動労規約上の地方本部であり、民事訴訟法第四六条の代表者の定めのある社団であることは認めるが、その余は争う。

三 原告の主張A三の事実は、12、14を除き認める。

四 原告の主張A四、五の事実は否認し、主張は争う。

五 原告は、昭和四九年一月二八日の札幌地本再建大会で、原告執行委員長として佐々木善治を選任したと主張する。しかし、右大会は原告を構成する組合員約三五〇〇名の過半数をはるかに超す二〇〇〇名以上の組合員ないしそれによつて選出された代議員に対する招集手続を欠き、それらの意思に全く基づくことなしに行われたものであり、従つて、一部組合員によつて組合規約に基づくことなく、ほしいままに選出された佐々木善治が原告執行委員長の資格をもちうることはなく、また佐々木に対する選出行為がその後繰り返されたとしても、選出の手続及び選出母体の実質に変化がなく、それによつて佐々木の資格が補正ないし補完された事実はない。

六 本件再登録を決定した動労第二八回臨時全国大会の決議は無効である。すなわち、

1 動労組合員たる資格は、除名のほか国鉄の動力車関係の身分を失つた場合を除き、意に反して組合員資格を喪失することがない旨、規約で保障されている(動労規約第八条)。

2 除名を含めた制裁の手続は、規約の定めた要件に該当しかつ、査問委員会の事前調査と答申に基づいて大会又は中央委員会が決定するとされている(同第五四条)。

3 規約で定める復権(同第五五条)及び組合員登録基準第二条6が「組合規約により除名処分を受けたものが再度組合に加入を申請し、中央委員会又は大会で加入を認めたもの」を組合員と認める旨規定するのは、いずれも統制処分によつて組合員資格を喪失したものについての規定である。

4 組合員はいかなる場合においても人種、宗教、性別、門地又は身分によつて組合員としての資格を奪われない旨規定されている(同第七条)。

5 中央本部が地方本部の各級機関に対して執行権限停止その他の統制処分を加える権限は規約上認められていない。

原告組合員約三五〇〇名は、もともと動労規約に定める除名処分を受けたものでなく、規約の除名要件に該当する事実は存在せず、右のような除名処分に必要な手続も履践されていない。また、除名を受けたものを対象とする再登録ないし再加入申請の制度を一般組合員に適用して、逆に再登録に応じないことを理由にして組合員資格を奪うことは、組合員の資格を保障した規約に違反する。かくて、右大会決議は実体上、手続上いずれからみても一見明白に無効というほかない。

そして再登録が無効であることは判例(東京地裁昭和五一年七月一四日判決判例時報八二六号九九頁)でもある。

七 被告の結成は、動労中央本部によつて組合員資格を否定された約二〇〇〇名の原告組合員が、実際上組合活動による犠牲補償、組合による綜合共済の給付、労働協約の適用を拒否され、労働条件、生活条件の維持改善という労働組合活動を継続する現実的必要性から、全員が動労組合員資格を保持したまま昭和四九年三月二八日にやむを得ず行つたもので、これによつて国鉄当局との団体交渉権を確保したものである。また、本件再登録に応じなかつた約二〇〇〇名の組合員は、動労を脱退する意思は全くなく、またそのような意思表示をしたこともないし、むしろ裁判所に対し、動労による統制処分の無効及び効力の停止を申請し、認容の判決、決定を受けており、また本件訴訟をはじめ、それに先行する各種の訴訟でも組合員資格を否定する原告の主張に対し、一貫して争つてきたものである。右二〇〇〇名の組合員が、組合員としての地位確認請求をしないのは、右請求を認容する判決、決定が出ても、動労が右判決、決定に従う見込みがないからである。従つて、本件再登録に応じなかつたこと、被告組合を結成したことをもつて動労を脱退する意思表示を擬制することは許されないものである。

八 1 動労中央本部が本件再登録を行うに至つた理由は、

(一) 動労第七五回定期中央委員会で前委員長目黒今朝次郎を昭和四九年施行の参議院議員選挙の候補として立て、その選挙活動資金として組合員一人金二〇〇〇円を第三闘争資金の名で徴収することを決定したのに対し、原告役員らは自らもこれを納入せず、また他の組合員に対し納入しないよう働きかけた。

(二) 原告の第二三回定期地本大会で「政党支持、政治活動の自由」「特定政党支持の排除」「革マル、トロツキストの排除」等を方針とし、動労中央本部がこれの削除、訂正を指示したが応じなかつた。

ことにある。

2 しかしながら最高裁昭和五〇年一一月二八日判決(判例時報七九八号一二頁)においては、「労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが、組合員に対しこれへの協力を強制することは許されない。」とされており、個々の組合員に対し強制できないことは地方本部に対しても同じである。そして、右決定を強制する目的でなした統制処分は札幌地裁をはじめ全国七地裁で効力停止仮処分決定がされている。従つて、右の意味でも本件再登録は無効である。

九 原告は、動労が単一組織であることを強調し、下部組織の独立性をできる限り消極に解そうとしているが、単一組織と連合体の区別は事実上暖昧であり、右の点から法律的処理を峻別することはできないのであつて、地方組織はそれ自身労働組合であるから、本部と地方組織の方針が異なることを理由として組織排除することは許されない。

一〇 原告の主張A六の事実は、組合員数を除き、認める。組合員数は約二〇〇〇名である。

B  請求原因に対する認否

一 請求原因一の事実は認める。

但し、原告は約三五〇〇名の組合員を有し、代表者を昭和四八年八月から昭和五〇年七月一七日までは遠藤泰三、翌一八日よりは佐久間慶一とするものである。

二 同二の事実は認める。

三 同三の事実は否認する。

C  抗弁

被告は、原告(但し、当時の代表者は遠藤泰三である)と昭和四九年三月二八日本件建物の使用貸借契約を締結した。すなわち、原告規約第二二条は、一件二〇万円以上の資産の処分は地本大会の決議事項としているところ、同日午前遠藤泰三を代表者として開かれた原告の第二六回臨時地本大会で右使用貸借契約締結承認の決議を経たうえ、同日午後被告組合結成大会終了後に右契約を締結したものであり、被告組合が存続する限り被告組合事務所として使用するという内容である。

D  再抗弁に対する認否

再抗弁一、二の事実は否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告の主張A一の事実の内、動労が法人格ある単一組合であること、地方本部その他の下部組織が存すること、動労の地方本部が一般的に権利能力なき社団であること、動労規約に原告主張の各条項が存在することは、当事者間に争いがない。また、同二の事実の内、昭和四九年一月二八日までの原告が動労規約上の地方本部であり、民事訴訟法第四六条の代表者の定めのある独立の社団であること、同三の事実の内、1ないし11・13の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告は「原告は、国鉄北海道総局直轄局に勤務する動労の組合員約三五〇〇名をもつて組織されていたところ、その後約二〇〇〇名の脱退があつたので、以後現在まで約一五〇〇名をもつて組織されており、右約一五〇〇名より選出された執行委員長佐々木善治を代表者とする、民事訴訟法第四六条にいう代表者の定めのある社団である。」と主張する。他方、被告は「右脱退の事実はなく、原告は依然約三五〇〇名をもつて組織されており、佐々木善治は右組合員約三五〇〇名より選出されたものではないので原告の代表者とはいえない。」と主張(本案前の抗弁)する。よつて、右の点につき判断することにする。

まず、原告は、約二〇〇〇名の組合員につき本件再登録に応じなかつたことにより動労より脱退する旨の意思表示をしたと主張するので、本件再登録について検討する。

1  前記当事者間に争いない事実、成立に争いがない甲第九・一〇・一四・一五号証、第二一ないし第二三号証、証人中江昌夫、同八鍬重一の各証言、原告代表者本人尋問の結果を総合すると、

(一)  動労が、原告組合員に対し、本件再登録を行うに至つた理由は、

(1) 原告が、動労の第二七回全国大会の社会党支持の決定に反して、第二三回定期地本大会において「政党支持、政治活動の自由」、「特定政党支持の排除」、「革マル、トロツキストの排除」の運動方針を決定したこと

(2) 動労中央本部が原告に対し、原告の運動方針中、全国大会決定に反する前項記載の部分について削除を指令したにもかかわらず、右指令に従わず、逆に第二四回臨時地本大会で右指令を拒否し、前項の運動方針を堅持し、あくまでたたかいぬくことを決議したこと

によるものであること

(二)  本件再登録は、あらかじめ作成された『組合員再登録申請書』に記名押印することで行われたが、右申請書には、定型的に「私は、第二八回臨時全国大会の決定に基づいて国鉄動力車労働組合の組合員としての再登録を申請します。なお、再登録申請にあたつて、国鉄動力車労働組合の規約、規則及び諸機関の決定を守り実践することを申し添えます。」との文言の記載があること

(三)  本件再登録にあたつて設置された資格審査委員会は、少くとも前項の記載事項を変えた申請書が提出された場合は、申請者が動労組合員として適格かどうかを審査するものであること

を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

2  そこで、右認定事実に基づき本件再登録の意味を考察すると、(イ)本件において動労が再登録手続を実施した理由が、多数の原告組合員が全国大会で動労の決定した社会党支持の方針に反する政党支持・政治活動の自由を原告の運動方針として決議したことにあること、(ロ)原告組合員が前記文言の記載のある再登録申請書を提出することは、動労に対し動労の決定した社会党支持の方針に従うことを表明することにほかならないこと(またそうでなければ、動労にとつて本件再登録を行う意味のないことは前記認定事実及び弁論の全趣旨に照らして明らかである。)、(ハ)再登録申請書提出者に対し事実上資格審査が行われること、などの事実からすると、結局本件再登録手続は、札幌地本組合員の内、動労の方針である社会党支持の方針に従わないものを動労から排除するために行われたものと解される。

3  ところで、労働組合が組織として支持政党又は統一候補を決定し、その選挙運動を推進することは自由であるが、政党や選挙による議員の活動は、各種の政治的課題の解決のために労働者の生活利益とは関係のない広範な領域にも及ぶものであり、従つて選挙においてどの政党又はどの候補を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるから、組合員に対して、右の点についての決定への協力を強制することは許されないものであり、各組合員が右決定に従わない場合に組合が統制権を行使することはできないと解すべきである(最高裁昭和四三年一二月四日大法廷判決刑集二二巻一三号一四二五頁、同昭和四四年五月二日判決裁判集民事九五号二五七頁、同昭和五〇年一一月二八日判決民集二九巻一〇号一六九八頁参照)。そうだとすると、本件再登録も、前述のようにそれが再登録手続をもつて労働組合の政党支持に関する方針に従うことを要求し、再登録に応じなければ、動労から排除し、組合員資格を否定しようとするものである以上、かかる手続を行うことはそれだけで許されないといわねばならない。

原告は、労働組合の政党支持に関する決定は、単一組織の組合である以上、下部機関がこれに反する決定をすることは許されないと主張する。たしかに、政党支持について労働組合が組織として決定することは自由である以上、下部機関の役員は、中央本部の決定を組合員に伝達し周知させる義務があると解されるが、各組合員個人に対して、政党支持の問題について組織としての決定に従うことを強制することは、前記のとおり許されないものである。そして、本件において、各組合員が地本の大会で既に全国大会で決定した方針に反する決議案に賛成することは、各組合員の政治的信条の表明であつて、この場合、各組合員に対し各人の政治的信条に反してでも全国大会の決議に反する方針に賛成してはならないと命ずることは許されないから、右決議に賛成したことを理由として各組合員に対し統制権を行使したり、再登録手続を行つたりすることは許されないといわねばならない。

従つて、本件再登録は無効であり、右再登録に応じなかつたことをもつて動労の組合員たる資格を失うと解することはできないものである。

4  原告は、本件再登録は、当時存した原告をめぐる組織的混乱状況を収拾し、組織の解体崩壊の危機を克服し、組織の統一的機能を回復するために採つた必要かつやむを得ざる措置であると主張するが、本件再登録の性格が前記のとおりである以上、そもそも本件において再登録手続を行うことは許されないものであるから、原告の主張は失当である。

5  原告は、本件再登録に応じなかつた組合員は、動労の方針に従い団結することを拒否したものであるから、これにより動労を脱退する意思表示をしたものであると主張するが、そもそも前記のような性格をもつ再登録を行うことは許されないのであるから、再登録に応じないことをもつて組合脱退の意思表示をしたものということはできない。

三  次に、原告は、本件再登録に応じなかつた約二〇〇〇名の原告組合員は、昭和四九年三月二八日被告を結成したことにより動労を脱退したと主張するので、この点を検討する。

1  前記争いない原告の主張A三13の事実のほか、成立に争いのない甲第一・二号証の各一、第三・四号証、第一三号証、第二六号証、第四二号証、第四三号証の一・二、証人中江昌夫、同遠藤泰三、同中野募の各証言、原告代表者本人尋問の結果によれば、

(一)  本件再登録に応じなかつた遠藤泰三をはじめとする約二〇〇〇名の組合員は、本件再登録前の原告の地本大会代議員八二名の内再登録に応じた三五名に対し、自らが開催する臨時地本大会への参加の有無を問い合わせたところ返事がなかつたことから代議員権を放棄したものとして、代議員補充選挙を行つたうえ昭和四九年二月二五日第二五回臨時地本大会を開催し、同年三月一〇日札幌地本拡大支部代表者会議を開催して被告結成のための討議を行い、同月一四日第七八回札幌地本臨時地方委員会を開催して、全国鉄労働者の統一をめざし被告を結成すること、運動方針案、財政方針案、規約案を確認し、これを同月二八日に開かれる被告結成大会に提案し、正式決定を求めることにしたこと

(二)  遠藤泰三をはじめとする右約二〇〇〇名の組合員は、同月二八日第二六回臨時地本大会及び被告第一回大会を開催し、「被告は、全国の同じ条件でたたかつている諸組織と連合し、ただちに連合体としての全国組織たる全国鉄動力車労働組合連合会(全動労)を結成すること、この組合は動労本部の不法不当な人権じゆうりん、権利侵害に対して動労組合員としての正当な権利を今後もひき続いて主張しつづける原告の組合員(約二〇〇〇名)を中心に構成すること、右二つの組合は表・裏一体の内容をなすものであり、原告は、動労本部との権利関係を明確にし原告として所有する組合資産の管理を行うという限度で、今後も解散せず存在しつづけることになること」等を宣言して遠藤泰三を執行委員長とする被告を結成したこと

(三)  本件再登録後、右被告結成に至るまでの間及びその後においても、本件再登録に応じなかつた右約二〇〇〇名の組合員は、組合費を動労中央本部に納入することもせず、また、動労本部の活動方針に従つて活動もしていないこと

(四)  被告はその目的を「組合員の団結のもとに組合員の経済的、社会的、政治的地位の向上をはかると共に、国鉄の経営の民主化、国鉄労働者の統一をめざすこと(被告規約第五条)」としているのに対し、原告は、動労のそれ(動労規約第四条)とほとんど同じく「組合員の労働条件の維持・改善を図り経済的社会的地位を向上し民主的国家の興隆に寄与すること(原告規約第四条)」を目的とすること

(五)  原告は組合員の範囲について「北海道総局直轄局の動力車に関係あるもの(原告規約第三条)」と規定しているのに対し、被告は右の他、被告の勤務員等も組合員に含めており(被告規約第四条)、組合員の範囲が異なること

(六)  本件再登録に応じなかつた約二〇〇〇名の組合員については、被告結成後は、被告としての組合費の徴収はあつても、原告としての組合費は徴収されず、原告の財政については、前記第二六回臨時地本大会で金員とも被告に貸し渡してあるので実体としては収支ともにない、とされていること

(七)  原告役員は、地本大会代議員の中から直接無記名投票により選出されるものと定められている(原告規約第三四条)のに対し、被告役員は、組合員の中から直接無記名投票により選出され(被告規約第四五条)、かつ被告結成後は、被告役員が自動的に原告役員を兼任するものとされており(被告規約第六四、六五条)、また、原告代議員の支部単位選出の比率は組合員五〇名につき一名とされている(原告規約第二八条)のに対し、被告代議員の支部単位選出の比率は組合員三〇名につき一名とされており(被告規約第三九条)、かつ被告結成後は被告代議員が自動的に原告代議員を兼任するものとされており、前記再登録に応じなかつた約二〇〇〇名の原告組合員による動労札幌地本大会と銘打つた大会は、被告定期大会開催の際に、同大会に併せて、右のごとき被告代議員の兼任による代議員によつて行われているにすぎず、しかもその動労札幌地本大会の内容は「経過報告及び方針については被告のそれを引用する。財政については、第二六回地本臨時大会で金員とも被告に貸し渡してあるので実体としては収支ともにない。」旨の執行部報告を確認するにとどまつていて、動労中央委員、大会代議員を選出したり、動労の中央委員会、全国大会への出席方を望んだりしたことはないこと

(八)  動労は、昭和四九年一月三〇、三一日第八一回臨時中央委員会を開き、再登録に応じた約一五〇〇名の組合員によつて選出された代議員により同月二八日開催された札幌地本再建大会で選任された佐々木善治執行委員長ほか原告新執行部の発足を確認し原告として認知し、従前の原告執行委員長遠藤泰三をはじめとする旧執行部等の除名を決定したが、以後、現在に至るまで右約一五〇〇名の組合員が動労本部の方針に従つた原告としての団体活動を継続していること

を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

2  以上の事実に前記争いない原告の主張A三1ないし11、13を総合すれば、本件再登録に応じなかつた遠藤泰三をはじめとする約二〇〇〇名の組合員は、昭和四九年三月二八日以降、動労組合員として組合員の権利義務を行使すること及び原告の組織運営をすることを放棄し、目的、組織形態等が動労と異なる被告を結成(被告は更に全動労に加入)し、以後は動労と組織的関係の全くない被告組合員として活動している(動労札幌地本大会と称するものも開いているがこれは形だけのものにすぎない)ものであるから、右約二〇〇〇名の組合員は、被告結成をもつて動労を脱退する旨の黙示の意思表示をしたものといわざるを得ない。この認定に反する証人遠藤泰三、同中野募の各証言部分は、にわかに採用できない。

なお、動労規約第九条によれば、動労から組合員が脱退する場合、地本を通じ本部の執行委員長あてに書面をもつてその理由を明らかにして脱退の申出をしてその承認を受けることになつているが、右規約中、本部執行委員長の承認を要するとの点は無効と解されるのみならず、証人中江昌夫の証言によれば、従前から無届で脱退する例も相当数あつたことが認められるので、右規約第九条に違反しているからといつて脱退の意思表示が無効ということはできない。

3  被告は、被告の結成は、右約二〇〇〇名の組合員が組合活動による犠牲補償、組合による綜合共済の給付、労働協約の適用を得て、国鉄当局との団体交渉権を確保するために、やむを得ず行われたものであると主張し、証人遠藤泰三、同中野募の各証言によれば、右事実を認めることができなくはないが、右事実をもつてしても、未だ前項の黙示の脱退の意思表示の認定を動かすには足らない。

四  1 そこで、次に、本件再登録後、佐々木善治が原告代表者に選任されるに至つた手続を検討すると、前記争いない原告の主張A三9ないし11の事実、前記認定三1(ハ)の事実のほか、前出甲第三号証、第二一・二二号証、成立に争いのない甲第二四号証、第二五号証、第三六号証、第三七号証の一・二、第三八・三九号証、第四一号証の二ないし五、原本の存在及び成立に争いのない甲第四一号証の一、証人八鍬重一の証言、原告代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、

(一)  動労は、昭和四八年一二月二一日の第二八回臨時全国大会で、本件再登録の他、「原告各級機関の執行権限は、昭和四八年一二月二一日よりすべて停止し、以後は中央執行委員会が直接指導する。原告組織再建大会は、昭和四九年一月末日目途に招集し、大会準備委員会を速やかに発足させる。」ことを決定したこと

(二)  本件再登録は、昭和四八年一二月二二日から二八日まで実施され、同月二六日再登録に応じた約一五〇〇名の組合員によつて再建準備委員会が発足したこと

(三)  再建準備委員会は、動労中央本部の指令で再建大会を昭和四九年一月二八日に開催することに決定したが、これに先立ち、再建大会代議員の選挙を同月二四日施行したこと

(四)  右代議員選挙は本部の指令に基づいて地評役員が選挙管理委員会を構成し実施したが、その代議員定数の基準については、原告規約第二八条において代議員定数は二五名以上の支部は二名、二五名未満の支部は一名、各分科会各三名と規定していたのを改めて、組合員の意思を広く反映させるため、代議員定数を二五名以上の支部三名、二五名未満の支部二名と修正し、各分科会については規約どおりとしたこと

(五)  原告規約第三四条によれば、地方本部執行委員長は、地方本部大会で代議員の中から直接無記名投票で選出すると規定されているところ、昭和四九年一月二八日原告再建大会(右大会に出席した富田中央執行委員長は各級機関の執行権の復活を宣言した)が開催され前項の選挙により選出された代議員により、原告執行委員長として佐々木善治が選出されたほか原告新執行部が選出され、動労も同月三〇、三一日開催の第八一回臨時中央委員会で右原告新執行部の発足を確認し、動労札幌地本として認知し、遠藤泰三をはじめとする旧執行部の除名を決定したこと

(六)  右(四)の規約改正は、昭和四九年九月三〇日から同年一〇月二日まで開催された第二五回定期地本大会において追認されたこと

(七)  佐々木善治は、昭和四九年九月三〇日から同年一〇月二日まで開催の第二五回定期地本大会において再選され、更に昭和五〇年一〇月五日から六日まで開催の第二六回定期地本大会において再度再選され、次いで昭和五二年九月二三日から二五日まで開催の第二八回定期地本大会においても原告執行委員長に選任されたこと

が認められ、右認定に反する証拠はない。

2 以上によれば、昭和四九年一月二四日の代議員選挙は、本件再登録に応じた約一五〇〇名の組合員だけによつて行われたことが認められるところ、前記認定のとおり本件再登録が無効である以上、本件再登録に応じなかつた約二〇〇〇名の組合員も右選挙当時原告組合員であるから、右過半数の組合員の参加していない代議員選挙は無効である。そうすると、右無効な選挙により選出された代議員により同月二八日に行われた再建大会は、原告の正式な地本大会ということはできず、右大会によつて選任された佐々木善治は、原告の正当な執行委員長ということはできない。しかしながら、約二〇〇〇名の組合員が原告を脱退した後である昭和四九年三月二九日以降は、原告は、本件再登録に応じた約一五〇〇名の組合員のみによつて構成されているから、以後右約一五〇〇名の組合員により、公正に選出された代議員によつて開催された地本大会は有効であり、昭和四九年九月三〇日から同年一〇月二日までの間開催された第二五回定期地本大会において佐々木善治は、原告の執行委員長に有効に選任されたということができ、以後の再選出手続も有効であるから、佐々木善治は、原告の代表者ということができる。従つて被告の本案前の抗弁は採用することができない。

五  そして、前記認定事実、前出甲第二号証の一、第三号証によれば、原告は、動労規約第一六条により設置された動労の下部組織の一つであつて、国鉄北海道総局直轄局に勤務する動労の組合員約一五〇〇名をもつて組織され、動労規約や大会決議によつて拘束を受けるものの、決議の機関や執行委員長佐々木善治をはじめとする執行の機関を有し、地本規約、会計規則などを具え、動労の方針に反しない限度で自主的な活動をすることができるものであることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。そうすると原告は、個々の組合員の増減変動によつて影響されない団体としての存在が認められ、その組織、運営、財産の管理等が規則によつて確定されているとともに代表者の定めがあるから、民事訴訟法第四六条にいう代表者の定めのある社団ということができ、従つて同条により当事者能力を有するものと解される。

また、前出甲第四号証、証人遠藤泰三、同中野募の各証言、弁論の全趣旨によれば、被告は、国鉄北海道総局直轄局の職員、準職員及び臨時雇用員で動力車に関係ある職務に従事する者を中心に組織され、現在組合員は約一八〇〇人で、佐久間慶一を執行委員長とする未登記の労働組合で、その組織、運営、財産の管理等が規則によつて確定されているとともに代表者の定めがあることが認められ、右認定に反する証拠はないから、被告も民事訴訟法第四六条にいう代表者の定めのある社団であり、当事者能力を有するといえる。

六  そこで本案について判断する。請求原因一及び二の事実は当事者間に争いがない。原告代表者本人尋問の結果によれば、本件建物の賃料相当額は、少くとも一か月金三〇万円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

七  そこで抗弁について判断する。被告は、昭和四九年三月二八日原告から本件建物を無償で借り受けたと主張するところ、前出甲第三号証によれば、一件二〇万円以上の資産の処分は地方本部大会の決定を要する旨原告規約第二二条四号は定めていることが認められ、被告は、右三月二八日午前遠藤泰三を代表者として開かれた第二六回臨時地本大会で原告が右使用貸借契約締結の承認決議をしたと主張するのであるが、前記認定事実のほか、前出甲第四号証、第一三号証、証人遠藤泰三、同中野募の各証言によれば、

1  当時の原告の地方本部代議員八二名(昭和四八年八月の第二三回定期地本大会の際選出され、任期は一年)の内、本件再登録に応じた三五名の者は右第二六回臨時地本大会に出席していないこと

2  右三五名については、前記のように、代議員権を放棄したものとして、代議員補充選挙により選出し直したとしているが、右補充選挙は、本件再登録に応じなかつた約二〇〇〇名の組合員のみによつて行われたこと

が認められ、右認定に反する証拠はない。

以上によれば、右三五名の代議員の選出手続は、当時の原告組合員数が約三五〇〇名であつたことに照らし適法なものとはいえず、また八二名から右三五名を除いた四七名の代議員では地本大会の定足数を満たしていないことは明らか(原告規約第二〇条)であるから、被告の主張する承認決議があつたとしても、それが有効であることを認めることはできない。そうすると、被告の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

八  以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言の申立については、相当でないからこれを却下して主文のとおり判決する。

(裁判官 古川正孝 島田充子 富田善範)

(別紙物件目録省略)

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